捕手だけじゃない?コリジョンルールの影響
このコラムは2016年6月に管理人の解釈によって書かれたものです。まだ曖昧な部分があるため、不正確な部分やルール自体の変更、解釈の仕方に変更があるかもしれません。
コリジョンルールの詳細と導入のきっかけ
野球規則により追加された下記の記述がコリジョンルールに関する部分になります。
(i)本塁での衝突プレイ
(1)得点しようとしている走者は、最初から捕手または本塁のカバーに来た野手(投手を含む、以下「野手」という)に接触しようとして、または避けられたにもかかわらず最初から接触をもくろんで走路から外れることはできない。もし得点しようとした走者が最初から捕手または野手に接触しようとしたと審判員が判断すれば、捕手または野手がボールを保持していたかどうかに関係なく、審判員はその走者にアウトを宣告する。その場合、ボールデッドとなって、すべての他の走者は接触が起きたときに占有していた塁(最後に触れていた塁)に戻らなければならない。走者が正しく本塁に滑り込んでいた場合には、本項に違反したとはみなされない。
【原注】走者が触塁の努力を怠って、肩を下げたり、手、肘または腕を使って押したりする行為は、本項に違反して最初から捕手または野手と接触するために、または避けられたにもかかわらず最初から接触をもくろんで走路を外れたとみなされる。走者が塁に滑り込んだ場合、足からのスライディングであれば、走者の尻および脚が捕手または野手に触れる前に先に地面に落ちたとき、またヘッドスライディングであれば、捕手または野手と接触する前に走者の身体が先に地面に落ちたときは、正しいスライディングとみなされる。捕手または野手が走者の走路をブロックした場合は、本項に違反して走者が避けられたにもかかわらず接触をもくろんだということを考える必要はない。
(2)捕手がボールを持たずに得点しようとしている走者の走路をブロックすることはできない。もし捕手がボールを持たずに走者の走路をブロックしたと審判員が判断した場合、審判員はその走者にセーフを宣告する。前記にかかわらず、捕手が送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合(たとえば、送球の方向、軌道、バウンドに反応して動いたような場合)には、本項に違反したとはみなされない。また、走者がスライディングすることで捕手との接触を避けられたならば、ボールを持たない捕手が本項に違反したとはみなされない。
本塁でのフォースプレイには、本項を適用しない。
【原注】
捕手が、ボールを持たずに本塁をブロックするか(または実際に送球を守備しようとしていないとき)、および得点しようとしている走者の走塁を邪魔するか、阻害した場合を除いて、捕手は本項に違反したとはみなされない。審判員が、捕手が本塁をブロックしたかどうかに関係なく、走者はアウトを宣告されていたであろうと判断すれば、捕手が走者の走塁を邪魔または阻害したとはみなされない。また、捕手は、滑り込んでくる走者に触球するときには不必要かつ激しい接触を避けるために最大限の努力をしなければならない。滑り込んでくる走者と日常的に不必要なかつ激しい接触(たとえば膝、レガース、肘または前腕を使って接触をもくろむ)をする捕手はリーグ会長の制裁の対象となる。
【注】 我が国では、本項の(1)(2)ともに、所属する団体の規定に従う。
要約すると、
(1) 本塁突入時に走者は野手に接触しにいってはいけない
(2) 捕手はボールを持っていない状態で走路をブロックをしてはいけない
というものです。
別の言い方をすると、本塁における不必要な体当たりという守備妨害とボールを持たないでのブロックという走塁妨害を明確に禁止したルール、となります。
これに細かな注釈が付く形になります。
まず、このルールはプレー中における選手の怪我を防ごうという目的の為に導入されたルールであるということです。
過去に本塁クロスプレーの時、走者が意図的に捕手に体当たりをすることで落球を狙うというプレーが見られました。
体当たりをされた捕手は大怪我をすることもあり、危険なプレーとして一部からは批判的に見られていました。
また、走者側からの意見として、捕手が身体でベースを隠す行為、つまりブロックが行われている為、体当たりでこじ開けるしかないというものがありました。
両者の意見を聞き、議論を重ねたであろう結果、メジャーリーグでは2014年シーズンからこのコリジョンルールが導入されました。
また、高校野球などでも同じようなルールが先んじて導入されています。
そして、後を追うように日本プロ野球でも2016年シーズンから導入となったのです。
コリジョンルールにおける捕手への影響
これまで捕手は本塁を守る上で身体で本塁を隠すブロック行為は当然としてプレーしてきました。
また、ブロックどころかボールを受ける前に走者の走路に立つことも禁止されました。
つまり捕手は根本的なポジショニングの変更を求められることになります。
今までは返球を待つ間、捕手は本塁のほぼ真上を基本にして立っていましたが、コリジョンルール導入後は本塁よりも前に立たなければならなくなりました。
これにより走者にタッチに行くための距離が長くなったこともポイントです。
素直にタッチに行くだけでは走者に交わされる可能性も高くなりました。
他には三塁走者への警戒を強めざるを得ない点が挙げられます。
ランナー一、三塁の場面で重盗を仕掛けてきたり、ギャンブルスタートを切ってくることが増えてきます。
捕手は常に三塁走者を意識し、時には牽制をする場面も増えるかもしれません。
コリジョンルールにおける投手への影響
コリジョンルール適用第一号となったのは、なんと投手です。
野球規則の(2)の項には"捕手が"と明記されています。がしかし、実は投手(を含む野手)もコリジョンルール適用の範囲なのです。
プロ野球では野球規則の他に、各リーグの球団で定めたアグリーメント(内規)という申し合わせ事項が存在します。
このアグリーメントの中で、野手もコリジョンルールの範囲としています。
そのため、投手や内野手もコリジョンルールを頭に入れておく必要があるのです。
投手の場合は暴投やパスボールからのベースカバー、更に狭殺プレーでも本塁ベースカバーに入ることがあるでしょう。
ランナー一、三塁で重盗が試みられた場合、捕手の送球を投手がカットして三塁走者を刺すというプレーも考えられます。
投手も9人目の野手として、意外とコリジョンルールと関わることが多いかもしれません。
コリジョンルールにおける野手への影響
今までは多少の送球の逸れは捕手のブロックによって誤魔化すことが出来ましたが、コリジョンルール導入後は送球の逸れがそのままタッチの遅れに繋がってしまいます。 次に中継プレーでの影響です。
左翼ファウルゾーンあるいはファウルライン際からの返球を中継する場合、今までは中継する内野手は三塁付近のファウルゾーンで待ち、本塁のファウルゾーン側で待つ捕手に返球することがありました。
しかし、コリジョンルールにより捕手が本塁よりフェアゾーン側で待つ様になり、それに合わせて中継もフェアゾーンで行う必要が出てきました。
また、本塁に投げるのかそれもと他の走者を牽制するのかという判断も今までと変わってくるでしょう。 野手が新たな判断の感覚を掴むまで、しばらくは本塁に投げない消極的な判断が増えるかもしれません。
直接的にコリジョンルールと関わるのは、内野手が三本塁間での狭殺プレーに参加した時くらいでしょうか。
コリジョンルールにおける走者への影響
セーフのタイミングなら素直に滑り込み、アウトのタイミングなら回り込む形になると思いますが、この回り込んでのベースタッチがかなり有効になってきます。
捕手はコリジョンルールを気にして手だけでタッチに来ることが多くなりますが、ポジションが本塁よりも前なこともありあまり遠くまでタッチが届きません。
完全にアウトのタイミングでも最初のタッチをかわすことで生還するチャンスが生まれます。
実際の試合でも捕手のタッチをかわして生還するというシーンが何度か見られています。
コリジョンルールにおける観客・ファンへの影響
とにかくわかりづらい。それがほとんどの人が感じていることではないでしょうか。
グラウンドでプレーする選手は勿論、審判までもがこの新ルールに馴染み切れていないように感じます。
選手や審判ですらそうなのですから、観客は更に理解することができずにいるのも当然でしょう。
試合中にビデオ判定になっても、詳しい説明のないまま判定だけが覆ることもありました。
これでは観客には何が起きたのか理解することは難しいです。
更にコリジョンルールに限りませんが、前述したアグリーメントを観客が目にすることができないというのも問題でしょう。
観客にとっては、"投手もコリジョンルールの適用範囲内"というのは完全にルールの後出しでした。
このように、現状コリジョンルールは観る側に多くの混乱をもたらしています。
コリジョンルールは選手の怪我を防ぐためのもの
走者の体当たりや捕手の硬いレガースによるブロックでの怪我は確実に減るでしょう。
今後はいわゆる併殺崩しにも一定の規制が入ることが予想されます。
新しいルールの導入はプロ野球に関わるすべての人がスムーズに適応できるように、できるだけ長い準備期間を設けてしっかりと説明をするということをNPBには徹底して欲しいです。
また、シーズン終了後にはルールは適正だったかなどの検証を行い、必要があれば解釈の変更を行ったり思い切って改正するなどの柔軟な対応を願います。